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ALTERED SOIL
土の記憶

わたしたちはどこから来たのか
宇宙誕生から21世紀まで、
グラフィックでたどる

書籍
定価 ¥35000(税込み)



●宇宙史を観る尺度
この本では、150億年前の宇宙誕生から現在まで続く土と生命の歴史を86ページの中に構成し、10の等比級数というシステムを利用して歴史を俯瞰する。この本では、我々は常に10ページ進むことで、ある過去の時点から現在までの時間の10分の9を進むこととなる。これは10ページごとに時間の縮尺が10分の1倍になっていくということである。

このようにしていけば、過去は巨視的に、近代は詳細に観ることが可能である。ここでは1ページに100年間を表示できる縮尺まで到達したところで倍率を固定する。最後の縮尺において我々は、10ページの間に紀元後1000年からの10世紀を辿り、21世紀へと到達するのである。

下図の螺旋のゲージは、過去から現在への流れのなかで各々の時を示す。
下にあるように1本につながった時間の流れのなかでの縮尺の変化の周期を90Cという角度に変換し、直径が等差となっている同心円の円弧をもって時間軸を捉える。ここでは90C進むことが、ある時点から現在までの10分の9を進むことを意味する。
このゲージは縮尺の変わり目となるページに表され、全体の時間の流れのなかでこれからの10ページで進む範囲を示す。



土は日々、どこでどのように造られているのだろうか。わずか1cmの厚さの土がつくられるのに百年から数百年という膨大な時間を費やされているという。
土は約4億年前に誕生したとされており、それを担ったのが海から上陸した地依類などの植物だった。岩の割れ目に根をはった植物は岩石から水に溶け出したミネラルを吸収して生長し、そこに棲息する微生物が枯れた植物を分解して腐植をつくる。一方、太陽と水による岩石の風化がもたらした細かい粒子。腐植という有機物と岩石の粒子という無機物が出会ってはじめて土が誕生したといわれている。

「土の記憶」の企画を立ち上げるにあたって、三つの機縁があった。

その一つが1999年夏のアイスランドへの旅だった。アイスランドは地球上に出現して2000年という最も新しい大地である。北極圏と接している厳しい環境にあり、人間が暮らしはじめてから1000年ほど、都市生活をはじめてからわずか200年という。その中で人がどのような生活を営んでいるかを垣間見たい、また地球の息づかいを感じたい、少なくとも自分の足で実感したいと思った。「サガ」に魅せられたウイリアム・モリスは二度アイスランドを訪れている。一度目は1871年の夏で、モリス37才、7月6日にロンドンを出て、7月13日にレイキャビックに渡っている。
そこで自宅のフローリングの温もりを素足に感じた後、自宅前の薄黒いしかも堅いアスファルトの路上に立って、足元の大地を確認するためにカメラのシャッターを切った。東京からアイスランドを経て、再び東京のアスファルトの路上に立つまでの、全ての地面の表象を写真に収めることにした。そして、私は地球を半周する機上の人となった。
ロンドン経由アイスランドの首都レイキャビックまではおよそ20時間。そこには火山灰で固められた道路が平たい大地の地平まで続いていた。レイキャビックから車で数時間走ると、8月の陽光が暮れかかるのを待たずに夜明けを迎えた。大地は低く張りついた植生で被われ、厳しい地球誕生の傷跡を残した壮絶な景観を見せていた。草原かと思えば、黒い岩塊が現れ、荒々しい自然の営みを刻んだ氷河の白い世界があり、その合い間のわずかな土地にも、寄り添うように人の棲む小さな町があった。火山灰の乾いた地の底から沸き上がる熱気を、夏草の甘い香りと柔らかさを、人が生まれる遥か太古の昔より変わることのない凍りついた白い大地を、己の足で感じ、それを記憶の中に留めようと、私はひたすら足元をカメラで捕らえつづけた。東京という人の溢れかえる大都会を発って二日と経たずに氷上の人となる真夏の夜の夢のような奇異な体感を覚える。そこには小さいが清楚な都市が存在し確かに息づいていた。

また一つは、文芸春秋誌1999年2月号に掲載された立花隆「20世紀 知の爆発」である。そこには明解な論調で次のように書かれてあった。「圧倒的なアクティビティ総量の累積史として見るならば、人類史の大半は20世紀において営まれたということができる。20世紀は人間の歴史において特別な時代だったと思っている。これほど人間の在り方が劇的に変化した時代はなかったのではないか。……よくこんないい方がなされる。地球史を1日24時間にたとえると、恐竜時代が終わって哺乳類の時代が始まったのは23時47分8秒ごろで、霊長類の中からヒトが出現したのが23時59分3秒ごろ。キリストがうまれたのが23時59分56秒24。20世紀が始まったのは23時59分59分99秒99。20世紀の100年などというものはほんの一瞬にすぎない。」
悠久の時を刻む時間軸、それは地球史にあってはほんの瞬きするほどの刹那にすぎない。また逆に人類の歴史の大半がこの20世紀の100年に凝縮されているということなのである。こうした見地に立ってこの本を構成する上での時間軸は十の倍数比率を採用し、地球史と人間史双方の時間軸からアプローチを試みた。

三つ目にINAXギャラリーで催された「秘土巡礼」展で、栗田宏一氏が土の美しさを教えてくれた。京都・法然院で行われたインスタレーションでは、板の間に円錐状の729個の土のパウダーが整然と盛られ、赤、青、紫、黄、オレンジ、黒、茶色は無論のこと、ピンクやベージュそして白もあり、幾多の微妙な差を見せる色のバリエーションがあった。10年前から日本中の土を採取して、土の自然の美しさを取り出す試行錯誤を繰り返すうち、土はそのままが一番と、ひとつひとつ丁寧に自然乾燥をし、植物の根や炭化物など、有機物を取り除き、ふるいにかけて細かな粒子にすると、より鮮やかな色を出す。このパウダー状の土を試験管に収納することその数1万本といわれる。それぞれの色のちがいもまた1万通りある。その作業をする彼の後ろ姿はまるで無心な修行僧である。土は不思議な美しさを放つ力を秘めているのである。モノリスは科学の眼を開かせる沈黙の宝であることを知る。

この本のコンセプトは「土は生命が刻んだ生の記憶を持つ」とした。土壌には粒子が存在していて、一見ぎっしり詰まっているようだが、ほとんどの土は隙間が半分近くもある。この隙間を空気と水が絶えず移動し、植物や土中生物のために酸素や栄養分を運び、常に大気から酸素を吸収して二酸化炭素を放出している。「土の顔」は多種多様な表情と履歴を秘めた循環する顔であり、そのリアリティを克明に記録した「今」の写真集である。その土の記憶から、150億年の宇宙創世、地球誕生、生命の遍歴、人の歩みの情報が、土と同化していく様を絵本の役目も担いたいと思いつつ表現した。最後にグラウンド・ゼロ N.Y.9.11.2001を記録した。それは9.1.2002に撮影されたものである。その写真には、世界貿易センタービルが崩れ落ちた後、砕けたコンクリートの塵と共に紙、遺体の一部まで堆積し異様な匂いをかもし出した真白な粉塵が、1年を経てもコンクリートの瓦礫の上に積もり残っていた。土は再び循環されることを待っている。

勝井三雄
10.2002


ALTERED SOIL
土の記憶

企画・構成 / 勝井三雄
作図・制作 / 中野豪雄 松井雄一郎
写真 / 大西成明 栗田宏一 中里和人 勝井彩人
編集 / 住友和子 村松寿満子
企画協力 / 入澤ユカ[INAXギャラリー チーフディレクター]
印刷 / [株]凸版印刷 熊沢印刷工芸[株]
用紙 / [株]特種製紙 [株]竹尾
表紙 / スーパーコントラスト/スーパーブラック/四六判Y目160kg
別丁 / スーパーコントラスト/スーパーブラック/四六判Y目110kg
本文 / ミセスB/ホワイト/菊判T目/76.5kg
ジャケット / ルーセンスS/イエロー/四六判Y目/55kg
        クロマティコ/マンゴ/640×920T目/59kg
        ピケ/ペッパー/四六判Y目/120kg
        ブルーZトレーシング/四六判T目/51.5kg
発行 / 勝井デザイン事務所
     東京都渋谷区西原3-48-9 〒151-0066 TEL: 03-5478-7681
発行日 / 2002年10月26日

2002 KATSUI DESIGN OFFICE
Printed in JAPAN


[土の記憶]
ALTERED SOIL

特種製紙総合技術研究所
Pam B館 第2回企画
原弘賞のクリエイターたち―2
(2002/10/26[土]〜2003年3/29[土])
展示作品

http://www.tokushu-paper.jp/